洒落怖Part302より「どんぶり飯」


大学生だったころは登山サークルに所属していた。

田舎の大学だったので、近場に登れる山が幾つかあった。登山サークルはそこそこの規模のサークルだった。

そのサークルの先輩に尾久という、登山馬鹿がいた。単位を落としまくってもあくまで山に登るという登山馬鹿だ。
尾久はいるだけでもうるさい男だったが、快活な性格だったのでサークル内でも慕うものは多かった。

ある日、尾久から奇妙な一枚の写真を見せられた。山で撮った写真だという。
大きな岩の上に、箸がまっすぐに突き立てられた山盛りのどんぶり飯がぽつんと置いてある写真だった。
尾久に、これは何か?と問うと、大学から車で三十分ほどの場所にあるR山にひとりで行ったときに撮った写真だという。
詳しく聞くと、尾久の他に登山者はいなかったにも関わらず、どんぶり飯がまるでついさっき盛られたかのように置いてあって、湯気まで立っていたという。
尾久自身は「狐か狸にでも化かされたか」といって笑っていたが、俺は尾久の自作自演の冗談だろうと思っていた。

しかし、それ以降、尾久がR山に登ると必ず同じ位置にどんぶり飯が置かれるようになった。
尾久がひとりで登るときだけでなく、パーティーを組んで登ったときにも、どんぶり飯が置かれるようになった。

このどんぶり飯の話はサークル内でも有名になり、尾久はサークル内で「山に愛された馬鹿」と呼ばれるようになり、尾久も満更ではないようだった。
しかし、尾久はいままで一度もそのどんぶり飯に手を付けたことが無かった。
サークル内では、尾久にどんぶり飯を食わせたらどうなるか、という話題がはやった。そして、皆で行って尾久にどんぶり飯を食わせてみようということになった。
その話に尾久も乗り気で、ついに尾久を中心とした五人のパーティーでR山に登ることになった。…

洒落怖Part302 - どんぶり飯