洒落怖Part129より「悪あがき」
ちょっと前に友人の兄が亡くなった。
俺はその友人―Gの家に行って線香をあげてきた。Gと俺とは昔から―それこそ一番古い記憶があるうちから―付き合いのある仲だ。だからGの兄のこともよく知っていた。
Gの兄は学究肌で、大学も留年した上に大学院まで進み、助手になってひたすら研究を続けていたらしい。
愛想は良くないし、教授のことまで無視して自分の好きな研究をしていたので、周りからは「生真面目な変わり者」と捉えられていた。何を研究していたかまでは聞いていないが、なんでもキノコや粘菌を研究していたという。
彼は都合4年をかけた研究の成果をついに論文にした。その矢先の他界だった。
「でも、あんちゃんはあれで良かったんだよなぁ」とGは言った。なぜかと俺は問うた。「あんちゃんは、もうこの世でやる事をやり終えたから天に帰ったんだよ」
Gはそうやって納得しようとしていた。俺もそう思えるし、そう思いたかった。その場にいた者たちは、皆、Gの言葉にうなずいた。
棺の中の彼の顔は穏やかで、少し、微笑んでいるようにも見えた。…
故人の思いを遺された者たちは補完して納得しようとする。しかしそれは故人の意思に本当に合っているのか?という話。